株式会社オチマーケティングオフィス 


<66>アパレルの経営改革−5

リーマンショック以後、低迷していました景気も一昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。しかし、昨年3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、昨年4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。その後はまた、低迷です。
これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡したこの秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。
この1年間、小売業もアパレルも取り立てて店頭に向けての大掛かりな消費喚起の仕掛けをしていたのではないので、再び不況に陥るのは自明の理なのです。

各企業はコストカット(人員削減、家賃の高い本社の移転や、支店閉鎖、仕入率低減等)により、売上は低迷してもなんとか経常利益を良化させてきているのです。
しかし、それは一部の企業にのみ言える事であり、大半の中堅アパレル企業は息も絶え絶えの状態から、逸早く抜け出そうと新規事業(百貨店アパレルはSC直営店事業や、海外展開等、GMSアパレルは百貨店展開やOEM/ODM事業等)に目を向け、既存事業の悪化部分を補おうと渾身の力を振り絞っているように見えますが、本当に方針や施策が妥当と言えるのでしょうか?
本来は既存事業にて店頭売上を維持・向上させて、コストカットした利益を残し、盤石な体制の下に新規事業に手を出すべきではないでしょうか?

1.アパレル企業の経営方針の在り方
景気はまだまだ低迷し、そう簡単に回復基調に戻りそうにありません。また、この様な環境の中で、他力依存型経営では企業は持つ筈もないのです。要は、どのような環境の中でも、業績が安定する経営を運営するシステム構築が重要であり、まずはそれに向けて邁進する事が前提です。つまり、本業の環境が悪化してきているから、新規事業に目を向けるのではなく、本業の建て直しが最優先課題です。本業での利益が確保出来ないで、新規事業を育成できる筈もないのです。

本業の利益率を、悪くても10%以上確保し、それ以上積み上げた部分で新規事業へ参入を前提とする位の考え方を持ち、参入する場合でも、徹底した顧客マーケティングが必要です。
例えば、中国マーケットへの小売事業の参入等は、まだまだ中国人の考え方や趣味、嗜好、行動体系などの分析が不備としか言いようがありません。大きいマーケットがあるのは事実ですが、それに対しての地元の顧客のニーズや購買心理の分析はまだまだと言えます。日本でも、フランスのカルフール等が撤退していったりしているのです。我々はそんな事はやらないと考えているのは、単なる驕りとしか映っていない事を理解すべきでしょう。

本業においては、自分の得意のチャネルが全体の95%に減少したから、自分の会社も売上が95%になっても仕方ないと言った考え方に甘んじているとしか見受けられません。今は「みんなで渡れば怖い」時代なのです。
要は、マーケットが95%に減少しても、自社の売上は100%確保する施策が重要です。当然そう簡単ではありませんが、企業TOPがこの様な強い意志を持たないでTOPに座っている事は、その企業の株主や従業員にとっても不幸な事でしょう。
しかし、環境自体が悪化している中で、新規事業に対する無謀な積極策は取るべきではありません。既存事業に目を向け、そこに積極施策を取り込みましょう。堅実経営の磐石な基盤作りに邁進する時期と考えましょう。

2.アパレル企業のブランディングの在り方
アパレルも不振状態が続いていましたので、新ブランドは展開していなかったのですが、最近はコストカット等で減収増益に転換しだしており、大手アパレルを中心に新ブランドの開発・展開が起きつつあります。
しかし、今迄の新ブランドの失敗による原因追究をしないで、余裕が出来つつあるから攻めようとのニュアンスが窺えます。
まずは、マーケティングを徹底実施し、このターゲットにはこのライフスタイルを提案しようと設定し、そのターゲットにブランドを位置付けての展開にすべきです。
そのような事は当然やっていますとのお答えが返ってきますが、的確なマーケティングが出来ていれば、既存ブランドはもっと安定し、過去の新ブランドも成功している筈です。

要は、顧客のマーケティングに不備があるのです。
徹底した顧客マーケティングにより、自ブランドと自店顧客のニーズのギャップを認識し、ブランドに顧客を合わせるのか、顧客にブランドを合わせるのかの方針を決めて、社内外に徹底したブランドリニューアルか、ブランドに合う売場を構築し直すかを説明し、攻めのブランド戦略を取る事が必要です。
前年が最悪の状況であった企業では、最初に企業ヴィジョンありきで、「こう在りたい」と理想を掲げ、その後に現状認識をして、そのギャップに対し、どのルート、方法でそれに向けて進めていくかを決めるべきでしょう。

3.経営ヴィジョンの構築
ブランドは企業の資産という感覚が、アパレルの経営者に少ない事も問題です。ブランドの位置付けを上げると結果としての売上と利益が付いてくるという認識に立たないで、ブランドを消耗品もごとく使い捨ての感覚と見受けられる事が多いのです。
ブランド展開が上手く行かないのは、自らのマーケティングがそのブランドにはずれているのですから、リニューアルをすべきで、いままでこうだから、このままで行こうとの感覚も企画・デザイナーに多く、経営層がそこまで認識していないから、現場に負けてしまっているのです。

まず、経営層にこのブランドをどうしたいのかと言ったヴィジョンが明確でない事が、主たる原因です。
経営層はそれ位の事は判っていると思っている人が多いのですが、実行に移せて始めて判っていると言う表現が妥当なのです。

自分でほとんど現場の仕事まで介在する経営層も多く、これでは経営改革は夢のまた夢です。理論と実践を両輪にしての方策を現場に納得させて、社員を動かせる仕組みを構築する事が必要不可欠です。
経営者は現場20%、経営80%の仕事バランスを保ち、1週間の寒さ、暑さの売上のみに一喜一憂しているようでは、先が思いやられます。もう少し、後ろに下がってマーケットや自社を俯瞰してみることが必要なのです。現場(部長〜課長クラス)は逆に、現場80%、経営意識(コスト意識)20%の感覚で現場運営に当たるべきではないでしょうか?

これからのアパレル経営はヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。判っていてもできていないのは、判っていないと言えるのです。
経営層自らが自分を律し、率先垂範できるような体制作りが早急に求められています。
社員は上を見て仕事をする事は当然であり、この上を見る習慣はなかなか外せないのです。よって、上を向くのは当然として社員を動かす仕組みを構築する事に目を向けるべきで、その上に、お客様目線を持つ事による行動規範を明確にし、それが評価に反映する評価基準を設定し、その基準をガラス張りにしていく事が必要不可欠であり、経営層自らリードしていく燃える集団作りが今後、望まれています。

是非とも健全なる黒字体制に早急に改革できる事を祈念致します。

2012.02.27
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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