株式会社オチマーケティングオフィス 


<65>アパレルのブランド構築

リーマンショック以後、低迷していました景気も一昨年秋より、徐々に消費者の買い控えも脇が緩み出してきました。しかし、昨年3月の東日本大震災に一度元に戻りかけましたが、昨年4月以降夏の後半まで、順調に継続していました。その後はまた低迷です。
これは消費者の節約モードに飽きがきて、購買意欲が高まっていたのであり、一巡したこの秋以降からはまた、節約モードに戻りつつあります。
この1年間、小売業もアパレルも取り立てて店頭に向けての大掛かりな消費喚起の仕掛けをしていたのではないので、再び不況に陥るのは自明の理なのです。

各企業はコストカット(人員削減、家賃の高い本社の移転や、支店閉鎖、仕入率低減等)により、売上は低迷してもなんとか経常利益を良化させてきているのです。
そして、大手アパレルはレディスを中心とした新ブランド攻勢を掛けてきているのです。
果たして、数年先に残っているのはどのブランドなのでしょうか?各社の店頭展開を見る限り生き延びるにはハードルが高いと言っても過言ではないでしょう。
その理由はブランド構築に至るマーケティング、マーチャンダイジングに大きな不備を伴ったままの船出に見えるからなのです。

1. ブランドとは?
過去に牧場の牛を自分の牛と判断するために、牛に自分の名前の焼印を押したところから始まると言われていますが、現在では多様化しており、まずはショップブランドとグッズブランドに大別されます。ショップブランドとはトヨタ、日産、ソニー、パナソニック、三越、伊勢丹、高島屋、大丸等のお店や会社のネーミングなのです。また、グッズブランドとは商品に付いたネーミングで、ベンツ、ロールスロイス、ヴィトン、エルメス、グッチ等であり、会社名とダブっている名前もありますが、そのネーミングを聞いただけで商品が頭に浮かぶものを言います。

日本は特に、このショップブランドとグッズブランドをお客様が無意識に区分けして理解されているケースが多く、過去は三越ネームのセーターや高島屋ネームのドレスシャツが展開されていたのです。現在では全くそのような商品は見当たらなく、グッズブランド名が付けられての展開となっているのです。その理由は百貨店やGMSでは総合的に商品アイテムを扱っているために、多テイストの商品グループを区分けする必要が出てきており、お客様にニーズの多様化に適合すべく、百貨店やGMSの1店の中に、ブリティッシュやアメリカン、フレンチ、イタリアン等の商品を扱わねばならなくなったからなのです。

バーニーズや無印良品などはお店=1テイストなのであり、1ブランド展開や1テイスト編集でOKなのです。ユニクロも同様なのですが、ユニクロの場合は1テイストでないものまで1ブランドにしているケースがあり、1ブランド=1テイストとは言えないケースと言えます。つまり、必需品(肌着やフリース等のワンマイルウェア等)がメインであり、ファッション物(必欲品)についてはまだまだ商品構成等が未完成と言えるからなのです。

2.3つに大別されるグッズブランド
1つ目は世の中が右に動こうが、左に動こうが自分のスタンスを変えなく、自分に合った表現での時代性を取り入れるブランドであり、ヴィトン、グッチ等がそれに該当します。
2つ目は世の中が右に動いたら右を向き、左に動いたら左を向くような、立ち位置を変えないで時代を取り入れるブランドであり、百貨店でいうボリュームブランドなのです。
最後はそのブランドネームを外しても売上が変わらないブランドであり、GMS等が仕入先にこれと契約してネームを付けて納品して欲しいというような「記号型ブランド」なのです。

ブランドの価値とはネームを外して、同価格で、同品質で、同什器で、同販売員での接客で売上が大きく落ちる程、ブランド力があると言えるのです。
要は、そう簡単に第1の位置付けは出来ない(我慢できない)ので、当面第2の位置付けのブランドを目指す事が重要です。

3.ライフスタイルブランド構築の基本
ファッションブランドとは1人のお客様をイメージ設定し、そのお客様のライフスタイルを設計し、その生活に必要なアイテムをラインアップします。のターゲットを1人に絞る事が結果として幅広いお客様に認知されていくのです。
また、ブランドではどこまで商品化するのかのフレームを構築します。いくら売れてもトイレの便座カバーやスリッパまで展開するのかしないのかを検討してフレームを決めておくのです。便座カバーが悪いと言っているのではなく、生活には必要なのですが。このブランドで商品展開をやるべきか否かを考える事が必要なのです。

生活必需品をメインにしています無印良品では問題ないのですが、必欲品のみを展開しているブランド(例えばラグジュアリ―等)では扱わない方が良いのかも判りません。例えば、ピエールカルダンはトイレのスリッパまでライセンスとは言え展開し、「私のジャケットの裏地と同じ柄だ」とのイメージダウンで、ブランドの位置付けを落としめたとも言われています。要は狙っているブランドの位置付けにより、どこまでやるかを決めるべきなのです。

まずはターゲットの選定が重要なのです。ターゲットがビジネスになるくらい存在するのかのターゲット・マーケティングが重要なのです。
徹底したターゲット・マーケティングにより、自ブランドのターゲット・ニーズの確認し、ブランドのコンセプト作りに入るのです。第1のブランドを除いては、スタートすれば顧客にブランドを合わせざるを得ないのですから、社内外に徹底したブランド戦略を推進する事なのです。攻めのブランド戦略が必要です。

4.ブランド展開とMDの重要性
ライフスタイルブランドを構築するのは、1シーンのみでは対応できません。ターゲットのお客様の生活環境を想定し、ビジネスシーンでも通勤着、オフィスでの仕事中のウェア、出張時のウェア等、多様なシーンに対応できる提案が必要で、当然冠婚葬祭時のウェアも必要です。また、オフウェアでもお出掛け着やトラベルウェア、ワンマイルウェア等も必要不可欠なのです。このシーンを売場でも表現できるスペースが必要で、全部は無理でもそのシーズンの一番旬なシーンの2〜3は表現できる事が重要です。
このような多シーンをメインテーマに活用しながら、時期も織り交ぜての売場表現(提案)を推進すれば、時代に適合できるブランドに向かって構築できるのです。

また、ブランドがビジネスに乗るように道程を確認する事も重要です。
それにはブランド・マーチャンダイザー(ブランド事業部長=企画営業の総責任者)の職務が重要なのです。ブランド・ターゲットの確認、ブランド・コンセプトの確認、ライフスタイル設計の確認、商品構成の確認、商品展開計画の確認、展開店舗の確認、売上・利益計画の確認、仕入計画の確認、店頭在庫の確認、倉庫在庫の確認、販売員経費の確認、運用経費の確認、プロモーション計画の確認、販売員教育のシステムの確認等、多岐に渡るオペレーションの確認が必要となります。
ここが当然の如くブレるので、計画より良化している場合は問題ないのですが、いつまでにどこまで悪化したらブランド展開を中止するのかを経営層と詰めておく事も重要です。

5.経営層によるブランド・ヴィジョンの構築
まず、経営層にこのブランドをどうしたいのかと言ったヴィジョンを明確にすべきです。
経営層はこのブランドのコンセプトを理解し、どのような道程で育てていくのかを明確に認識し、その方向性と現場の方向性のブレを認識して、大枠での管理を実施し、それをはみ出る時こそ口を出すべきで、それも外れているというアドバイスであり、ブレの修正は現場に一任すべきです。
これからのブランド構築はブランド・ヴィジョンと現実の把握、そのギャップを縮める方策、迅速な実行、検証の繰り返しに尽きます。
判っていてもできていないのは、判っていないのです。
経営層自らがブランドに関わり、大枠でのフレーム構築をできるような体制作りが早急に求められています。

是非とも健全なるブランド構築が可能となり、企業に貢献できる事を祈念致します。

2012.01.30
株式会社 オチマーケティングオフィス  生地 雅之

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